“社員の健康”をデザインするオフィス|ウェルビーイング重視の空間づくり最前線
- しゅってんぽ事務局

- 11月5日
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健康経営の時代、オフィスの役割が変わる
近年、企業の間で「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉が注目されている。単に“健康”を意味するのではなく、身体的・精神的・社会的に満たされた状態を指すこの考え方は、経営や働き方の中にも深く浸透しつつある。特にオフィス環境は、社員の健康と生産性に大きく影響する要素として、再び見直されている分野だ。
かつては「オフィス=働くための場所」という単純な認識だった。しかし今では、「社員が快適に、長く、創造的に働ける場所」であることが求められている。長時間労働やストレスによる離職、メンタルヘルス問題などが社会的な課題になる中で、企業は“人を大切にするオフィスづくり”へと舵を切り始めている。
自然と調和する「バイオフィリックデザイン」が注目される理由
健康を意識したオフィスの代表的なトレンドが「バイオフィリックデザイン」だ。これは“人は自然とつながることで幸福を感じる”という概念に基づいた空間デザインで、観葉植物や木材の素材感、自然光を活かしたレイアウトなどが特徴となる。
例えば、オフィス中央にグリーンウォールを設けたり、窓から自然光を最大限取り入れたりする企業が増えている。これにより、ストレス軽減・集中力向上・コミュニケーションの活性化といった効果が実証されている。実際、海外の研究では「植物を配置したオフィスは生産性が15%向上した」というデータもあり、環境設計が業績にも直結することが明らかになってきている。
特に2025年以降は、オフィス設計の段階から「自然と人間の共生」をテーマにする不動産開発も増えており、都心でも“森の中にいるようなオフィス”が珍しくなくなってきた。
光・空気・音の「感覚環境」がパフォーマンスを左右する
ウェルビーイングを支えるのは、目に見えるデザインだけではない。照明、空気、音といった“感覚の快適さ”も、社員の集中力やモチベーションを左右する重要な要素だ。
例えば照明。近年は「人間中心照明(HCL)」と呼ばれる仕組みが注目されており、時間帯に応じて自然光の変化を再現することで、体内リズムを整える効果がある。空気環境も同様で、CO₂濃度が高いオフィスでは集中力や判断力が低下することが分かっており、最新のオフィスでは空気質を可視化し、自動で換気を行うIoTシステムが導入されている。
音環境に関しても、静かすぎても落ち着かず、騒がしすぎても集中できないという人間の特性を踏まえ、「適度な環境音(アンビエントサウンド)」を設計に組み込むケースが増えている。こうした微細な環境コントロールの積み重ねが、社員のパフォーマンスを最大化する鍵となっているのだ。

心の健康を支える“リラックススペース”の存在
身体的な健康と並んで重視されているのが「メンタルウェルビーイング」だ。特にオフィスワークでは、気持ちを切り替える時間や空間の有無が大きな差を生む。
そのため、最近のオフィスには“休むための空間”が積極的に導入されている。静かに一人で過ごせる瞑想ルームや、ソファやグリーンを配置したリラックスエリア、さらには睡眠をサポートするナップルームまで登場している。こうした空間は単なる休憩ではなく、「脳をリセットして新しい発想を生むための時間」として位置づけられている。
また、心の健康はコミュニケーションの質にも直結する。オープンスペースやカジュアルミーティングエリアなど、“話しやすい環境”を整えることも、社員同士のつながりを強化する上で欠かせない。
不動産価値としての“ウェルビーイング”
興味深いのは、こうした“健康を意識した設計”が、今や不動産価値を高める要素としても評価され始めていることだ。オフィス賃貸市場では、「社員の健康を支えるビル」や「快適な職場環境」をアピールする物件が人気を集め、入居率や賃料の安定につながっている。
また、企業側にとっても健康経営は“ブランドの信頼性”を高める要素となる。働く人の幸福を重視する企業は、採用市場でも好印象を持たれ、離職率の低下にもつながる。つまり、ウェルビーイング重視のオフィスづくりは「経営課題」としても「投資価値」としても合理的な選択なのだ。
まとめ:オフィスは“働く場”から“人を育てる場”へ
2025年のオフィスは、単なる作業スペースではなく、社員一人ひとりの健康と幸福を支える「人を育てる空間」へと進化している。自然との調和、快適な感覚環境、心の安定を促す空間デザイン――これらすべてが、企業の持続的成長に直結する時代だ。
これからオフィスを選ぶ際は、「立地」や「コスト」だけでなく、社員の健康と生産性をいかに支える設計になっているかという視点が欠かせない。ウェルビーイングを中心に据えたオフィスは、企業の未来を強くする“見えない投資”と言えるだろう。






